しろいしか くろいしか 1










クリスマスイブの日。僕は用事が無かったから、家で本を読んだり
忍具の手入れをしたりして過ごしていた。

クリスマスといっても、僕にとったらただの休暇なだけ。
ただ、街中がそわそわと慌ただしくなるのは、嫌いではなかった。

狭い僕の部屋の窓のカーテンを開ければ、静かに細かな雪が
散らつき始めていて、庭の木の上に落ちては消えていく様子を
しばらく眺めていたら・・・。目の前に鹿が二頭現れた。

その二頭の鹿。
片方は雪のように真っ白で、
もう片方はこの夜空のように真っ黒。
じっと僕のほうを見つめている、つぶらな4つの瞳に敵意はなくて。
僕に何かを言いたげだった。

少し警戒しながらも窓を開ければ・・・

「今年一年、良い子にしていたか?」

と。黒い鹿が喋ったのだ。

動物が喋る事は珍しい事ではないのだけれど。
突然、休暇中に白と黒の鹿がやってきて
良い子と呼ぶにはでか過ぎるであろう僕に向かって、
良い子にしてたかなんて・・・それも鹿に言われたら、誰だって驚く。

僕が怪訝な顔をすると、白い鹿が続ける。

「良い子にしていたのなら、素敵なプレゼントを。
 悪い子だったのなら、君の一番大事にしているものを貰って帰ります」

「・・・。あの」

全く訳が分からず、言葉を挟むと黒い鹿がにじり寄ってくる。

「さあ。良い子にしてたか?答えろ」
「答えなさい」


多分、今何聞いても答えてくれないんだろうな・・・。
他の言葉を話す事を許してくれなさそうな二頭の鹿を前にして、
僕は溜め息を吐いた。

だいたい、良い子にしてたら貰える素敵なプレゼントってなんだろう。
逆に悪い子だったら僕の大切な物を持って行くって言うけど、
僕の大切なものが何なのか、果たしてこの鹿は知ってるのだろうか。

僕の大切なもの・・・いや、大切なひとならいるけど。
でも、ただ僕が一方的にそう思っているだけだ。
あの人は・・・カカシさんは、そんな風に僕の事を思ってる訳じゃない。

大切な物を持って行かれるのは・・・ちょっと嫌だなぁ。
かといって、この歳になって「良い子にしてた」なんて言うのも
気が引けるんだけど。

いやでも、この状況。どっちか答えなきゃいけないんだし仕方がない。
僕は恥ずかしいと思いながらも、言わなきゃいけないと思って
ひとつ頷き・・・鹿に言った。

「もちろん、良い子にしてた」

やっとの想いで答えたのに・・・二頭の鹿は、何も言わないで
ただじっと、僕の事を見ているだけだ。
えぇ・・・僕、ちゃんと言ったのに!
穴があったら入りたいような、どうしようもない気持ちになってしまいながらも、
鹿の言葉を待っていたら。

「・・・!」

ボンっと煙が立ち昇り・・・二頭の鹿が消えてしまった。

「・・・・・・」

ぽつんと一人、取り残されたようで。どうしようもない気持ちが更に強まる。 
どこかに誰かがいるんじゃないかと思い、
窓から体を乗り出して外を見回していたら今度は部屋の呼び鈴が鳴った。

なんだろう・・・何かの任務依頼?
今日はもう本当に、訳が分からない。

あぁもう!と、心の中で文句を呟きながら、窓とカーテンを閉め
玄関の扉を開いてみれば・・・

「こーんばんは」
「・・・カカシ先輩?!」

扉の向こうにいたのは、そう。カカシ先輩だった。

「入ってもいい?飲み過ぎちゃってねぇ」

と、上機嫌でそう言って。僕の返事も待たずに、勝手に部屋の中に
入っていってしまった。
すれ違った時、先輩の「飲み過ぎた」っていう言葉の通り
強いアルコールの匂いがした。







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