ひだまり












ある日森の中を歩いてお気に入りの場所へと向かった。
そこで忍犬達の散歩も兼ねて、ゆっくりとイチャパラを読むのが俺にとって一番
心を休められる時間。


それが今日に限って。俺のお気に入りの場所に、先客が一人いた。
あれは、同じ暗部のテンゾウか。こんな所で何を?
よりにもよって、俺のお気に入りの場所で。


一人の時間を過ごすのがここに来る目的だったんだけど、
こんな所でテンゾウに会うなんてね。
ずっと意識してなかったから気付かなかったけど、
任務もテンゾウと一緒だと嬉しいし
誰かがあいつの噂話してたら、必要以上に気にしてしまってるし。
そして、テンゾウの笑った顔に俺はかなり弱い。
そんなこんなで、俺はテンゾウの事が好きなのかも知れない。
任務外でテンゾウを見かけるのも初めての事だし、ちょっと声でもかけてみよう。
そう思いながら、ゆっくりとテンゾウの傍へと近寄った。


テンゾウは、いつも付けているヘッドギアも外して
こっくりこっくりと居眠りをしている様子。
いくら眠っているからとはいえ、テンゾウなら俺の気配に気付いているはずなのに
一向に起きる気配はない。


離れた所から、大きな木の下に座り込んで居眠りをしているテンゾウを
しばらく見つめる。
まったく、よく眠ってる。
起きないのは居眠りの邪魔するなって事なんだろうか?
真面目なテンゾウの事だから、それは無いと思うんだけど。


柔らかそうな茶色の猫毛が、気持ち良さそうにふわふわと風に揺られている。
日焼けしていない白い頬が、ぽかぽかとした陽気に晒されて少し触れてみたいと思った。


無意識に手が伸びる。指先に柔らかい感触が伝わったすぐ後に、
それに気付いたテンゾウが大げさに体を後ろに反らして、
もたれていた木の幹に頭を打ち付けた。
いたたた・・・と、後頭部に手をやりながら俺をちらりと見上げた。


「かっこわる・・・」

「先輩・・・!驚かさないで下さいよ」


大きな目を一層大きくさせて、俺を見上げる顔はまるで子犬みたい。
かわいいけど、ちょっと可笑しい。


「気配、気付いてたでしょ?」
「気付いてましたけど・・・まさか頬を突かれるだなんて思わないじゃないですか」


テンゾウはそう言って溜め息を吐いて、微笑んだ。


「ん?」 「なんか、先輩がこんな事するなんて意外だなと思って」


そう言って、テンゾウがすっと人差し指を差し出して俺の頬を軽く突いた。
テンゾウの指が触れた瞬間、その手首を掴んで体を屈めテンゾウにキスした。
これも無意識。どうやらテンゾウに対して俺は理性を失ってしまうようで。
テンゾウは驚いて固まってしまってるのに、もうちょっとだけ・・・
と思ったら唇が離せない。


掴んでいるテンゾウの腕がふるふると震えている。
長く唇を合わせているのに、テンゾウが俺を突き放そうとしないという事に、
期待してもいいのか、それとも怒っているのか。どっちなんだろう。
それを確かめたくて唇をゆっくりと離してみると、目を真っ黒にして
顔は真っ赤にして。驚いた顔で固まったままだった。


「俺、テンゾウの事好きなんだけど」


そう言ってみると、一層顔を赤くさせて俺をぐっと押し退けた。


「・・・っ、なんだけどって何ですか!順番がっ、逆でしょう!」


てことは、嫌じゃなかったって事?
ムキになったような顔して言うテンゾウがかわいくて、かわいくて。
湯気が出そうな位、顔を真っ赤にしちゃって。


「逆だったら良かったんだ?」


そう言って、もう一度顔を近づけるとテンゾウはぎゅっと目を瞑って。
キスされるのを構えてるのかと思いきや、そのまま俺の唇に固く結ばれた唇が
ぐっと、勢いよく合わせられた。


予想していなかった展開に呆気に取られていたけど
これがテンゾウの返事だと気付いて、そのあまりにもな行動を取ったテンゾウが
愛おしくなり、ぎゅっとその体を抱きしめた。



唇が離れて、テンゾウの腕がそろそろと俺の背中へと回された。


「テンゾウ。さっきのってキスだった訳?」
「うぅ・・・。・・・はぃ・・・」


消え入りそうな程、小さい声でテンゾウが答えた。


「うーん、もうちょっと雰囲気出して、それに優しく甘くしてくれないと。
キスっていうのは、こうやって・・・」


俺の言葉に体を硬直させたテンゾウの体を離して、ゆっくりと顔を近づける。
テンゾウのしてくれたキスは多分この先ずっと忘れないと思うんだけど、
こんなかわいい反応してくれたら、ちょっと意地悪したくなってしまうというか。
余計に理性が利かなくなるというか。


夕陽が沈むまで、テンゾウに止められるまで、
ずっと唇を合わせて甘いキスをしていた。


なんでもない休日だったはずなのに。今日は一人で過ごすはずだったのに。
俺のお気に入りの場所にテンゾウがいたから、特別な一日になってしまった。
特別な誰か、とか。大切な誰かとかなんて、もう要らないと思っていたはずなのに
テンゾウだけは失いたくないって思った。


テンゾウは、日溜まりの中で見つけた俺だけの大切なひだまり。